某社のパン工場での話。





その日のパン工場は外部監査を受ける日で、従業員達は数日前から監査の準備に追われていた。














監査団から指摘箇所や不適合が無いように、従業員達はいつも以上に工場の衛生面、安全面に気を遣い、工場中がピリピリした空気に包まれていた。





監査員達が視て回る場所は大体決まっており、工場関係者以外は立ち入れない区域も存在するので監査経路は限定されている。





監査の1日の流れをよく知るベテラン社員ならそうそうボロは出さないものであるが、その年の監査の日、経験の浅い新人が致命的なミスを犯してしまう。



これにより企業のトップシークレットであった「未来のパン」の存在が明るみに出てしまった。





外部の人間が工場に立ち入る際は、「未来のパン」を関係者以外は立ち入れない区域に保管するのが常である。しかし、新人はいつも通りに出荷待ちのパンがひしめき合う保管区域に
「未来のパン」を運んでしまった。



これが運悪く監査員の目に留まり、食品関係者の間では有名な話となってしまった。





「未来のパン」とはパッケージの製造年月日に2~3日後の日付が刻印されている製造日が改ざんされたパンのことである。







「あそこのように大きな企業では“未来のパン”を作れるようですが、うちは小さいので現在のパンしか作れません。」



某食品メーカーの就職説明会にて、高齢の社長が皮肉交じりに言ったそうだ。