実家から離れた大学へ通うために、ある女性が一人暮らしを始めた。


実家では門限が厳しく、高校生になっても19時までには帰宅するという決まりであった。晩御飯は家族揃って食べるという父の考えからで、門限を破ると厳しく叱られていた。




一人暮らしには不安もあったが、いざ生活が始まってみると初めて手に入れた自由な暮らしが楽しくて仕方が無かった。付き合い始めの彼氏を家に呼んだり、門限という制約もなくなったので深夜まで飲み歩いたり、実家では考えられないことである。


実家では門限に厳しかったのと、もう一つ変わった決まりがあった。父が嫌いなためか、家ではペットを飼うことが禁じられていたのだ。


今まで動物を飼った経験が無かったので、小学生の頃は友人が飼っていた犬や猫がうらやましくて仕方なかったのが思い出される。


今まで出来なかったペットの飼育にもチャレンジしようと考えて、友人から一匹のハムスターを譲り受けた。


しかし、飼育経験が無いためかハムスターは数日で亡くなってしまった。エサも水もちゃんとあげているし、ゲージの置き場所も悪くなかったはずだが・・・まったくの心当たりがない。


ハードルを下げてメダカならばと、ホームセンターでメダカと水槽を買って来て飼育をスタートした。しかし、数日で全滅させてしまったのである。


実家の母と電話しているときにペットを飼ってみたらすぐに全滅させてしまったという話をしたら
「うちは憑き筋だったからペットを飼っちゃいかんよ」
と思いがけないことを言われた。


父も母も生まれは四国で、商売のために九州まで出て来たという話は聞いていたがこの話は初耳だった。


数代前に祭祀を放棄しているため蛇だか狐だか今ではもう分からないが、母の家では女性にだけ霊的なものが憑くという話が伝わっているそうだ。

憑き物の存在に対して母自身も半信半疑だが、不思議なことにペットを飼うと早死にする経験があったそうだ。


母が子供のときに祖母からは「○○様(その家系での憑きモノの呼び名)が嫉妬するからなんだよ。可哀想だから生き物は飼うな。」と言われてきたそうだ。


父は元々犬が大好きで子供の頃は犬を飼っていたそうだが、不可思議な物事に対しては信心深い方なので母の話を聞いてペットは飼わない方針でいるらしい。