さて、もう数年程前の事になりますでしょうか・・・・



場所は本郷の東大のキャンパスでの出来事。



確か100年祭なる催しがありまして、話のネタなるんじゃあないかと思いまして退屈凌ぎに見に行ったんです。









人面瘡:浅井了意『伽婢子』巻之九より



会場にはまあ驚くじゃありませんか。まさに。日本の最高学府が一世紀に渡り収蔵し蓄えた知識の奔流。さすがに集めも集めたり、珍妙奇怪摩訶不思議なる品々が所狭しとならべられており好事家の一人としては至福の時間を楽しんでおりました。(変でしょうか?)





さて、医学部の催しを見物していた時のことです。



雑談で仲良くなった某教授に法医学資料室を見せてもらえることになりました。

半地下の奥の突き当たりにあった廊下の一室の前にに僕を連れてまいりますと教授は、



『止めるなら今のうちだけどね?』



にやりと笑ってみせました。ここまできて逃げ腰になったんでは男が廃るので、



『面白い!見せてもらいましょう!!』と言ってのけました。



怖い事は怖いが 好奇心がそれに勝ちました。



『そうですか・・・それならば』



と、扉が開かれると空調の整った冷やりとした空気が廊下に這い出してきました。

中に入ると、僕は思わず声をあげるところでした。





三段の棚に整然と並べられたガラスケースの中には、かつて、人体を構成していたと思われるパーツが酢漬けのピクルス宜しくに漬け込まれ、その一つ一つに、筆記体の色あせたラベルが張りつけてありました。

こうなるともう怖いの通り越して無感覚になるから不思議です。群集の中の孤独というのでしょうか?





『こちらの方へどうぞ。もっ〜と!もの凄いのがありますよ』







教授に導かれるまま僕は死骸の回廊の中を進みました。

そこには奇形の標本が茶褐色に変色したアルコールの中に浮かんでいました。

正確な描写は避けますが・・・・ある物のには有るべきものが無く、またある物には余分なものが肉塊としてこびり付いていました。

(普通の人ならまあ多分引くでしょうねえ。僕も思わずぞっとして身を引くほどでしたから・・・・)





教授はその中でも変わった物をお見せしましょうと言って、一つのガラス壜を取り出して来ました。(円筒形の茶筒ほどの大きさの壜でした)



『なんですかそれは?』



『人面疽という代物です』



『人面疽ですって?まさか』



それは握り拳ほどの大きさの茶色く変色した肉塊でした。





粘土を無造作にこねてボトッと落としたような不細工な塊で表面には血管が走っているのが、見て取れ、無数の襞(ひだ)が表面を覆っており(火傷の皮膚のような引き攣れた肉です)、目、鼻、口に当たる部分が切れ込みのようにあり、蝦蟇か胎児のような面相でした。





目に当たる部分は薄っすらと目を開きかけ白目のようなものが覗いています。

明治の頃に二十代の女性の腿から切除したものらしいのですが詳しい記載は残っていないとのことでした。



ふいに教授が、にやっと笑いました。



『もしかしたら、まだ生きているかもしれませんよ? 出してみますか?』



『いいえ、結構です』



『そうですか? そいつあ! 残念だなあ〜』



教授はカラカラ笑いながら標本を戻しました。

(僕はこの人が一番怖い人だと思いながら東大を後にしました)

事実、東大にはまだ隠された何かがあるんじゃないかと思います。